2020年10月12日月曜日

2020年10月の竜舞亭第一例会の話:Return of the Runelords #04

Return of the Runelords第4回。Pathfinder RPG公式シナリオの特徴として、全体に明確な時系列が存在するというものがある。過去のシナリオの結果として著名なNPCの死亡や旅立ちによる人員の変更や更には地形の変化や都市や国そのものの興亡等も発生している。過去様々な冒険の舞台となった1st末期のVarisiaで繰り広げられるReturn of the Runelordsでは特に顕著で、辺境の港町ロデリック・コーヴからマグニマールへと向かう途中にも幾つかそういった場所が存在しており、かつての冒険の数々が及ぼした影響も時として語られている。

今回の面子は以下の通り。前回から1レベル上昇しキャラクター達は5レベルとなった。

プレイヤー名前種族クラス
makkouレーナ人間ミーディアム(遺物交信者)
唯一〈装置無力化〉技能を持つ二刀流カタナ使い。特徴は〔伝説の末裔〕。
ちーミェンウェン人間アンチェインドモンク
跳び蹴りを習得した二刀流殲滅力担当その2、特徴は〔霊との接触〕。
Waiz鈴雨フェッチリングスカルド(Urban Skald)
フェッチリングだがパーティーの交渉担当。特徴は〔失われた時間〕。
トリグラフリヴィア人間オラクル(魂の導き役)
前のめりすぎるパーティーの生命線担当。特徴は〔サーシロンへの誘惑〕。
Clare
ニャルアーケイニスト(Aeromancer)
実のところ第1章の主人公扱いだった。特徴は〔オードラニの味方〕。
2xxPテオドラ人間サイキック(Magaambyan telepath)
あまり気にされてないが元男性。特徴は〔不慮のクローン〕。
尚、以下はPathfinder Adventure Path #134『It Came from Hollow Mountain』序盤に関するネタバレを含みます。また、シナリオは随所変更されています。
1.ロデリック・コーヴからの旅立ち
ロデリック・コーヴでのルーンロードの遺産を巡る一種の代理戦争は収束し、一行の手には傲慢の魔剣バラケットが遺された。魔剣をこの地より遠ざけ、何人の手にも渡らぬよう封印することをロデリック卿の亡霊と約束した一行は、オードラニのアドバイスに従い”シェードロン評議会(The Sihedron Council)”の力を頼るべくロデリック・コーヴの港でマグニマール行きの船を待っていた。見送りには港湾知事のラレンザ、そして先の騒動の中心人物であるジャナとコルステラが来ていたが、ある意味ルーンロード達の被害者と言える2人はその境遇から互いに打ち解け合い、幾分か親密になった様子だった。3人はいずれもロデリック・コーヴに愛着を持っており、これからの発展や治安の回復にも熱心で今後ロデリック・コーヴは再び平穏を取り戻して発展していくことだろう。
 港へ到着した”ティアリーの気紛れ”号(Tyalee's Whim)号の船長スルシャ・アンティファレー(Captain Sursha Antefalle)は親友オードラニとの再会を喜び抱き合ったが、すぐさまマグニマールへと戻ることには難色を示した。しかし他ならぬオードラニの頼みであればとこれを聞き入れ、不満を漏らす船員達をなだめ了承した。また一行についてはさしたる感心も抱かず、ただオードラニの要求により船代を取らない代わりに必要に応じて船員達を手伝うことを条件として乗船が許可され、一行は一等航海士である”肘鉄”エディ("Elbows")の元で彼らの仕事を手伝うことになった。

 ロデリック・コーヴから積み込まれる船荷には6頭の神経質な雌牛の他に厳重に補強された木箱があった。頑強な駄馬に引かれたそれの周囲を心配そうにぐるぐる回る白髪の錬金術師ベックウッド・ルース(Beckwood Roos)は船長に気が付くと若干のニダル訛りが混じった共通語で荷が牛の隣に置かれることに不満を唱え、支払った金額相応の扱いをするように訴えていた。船長は錬金術師をなだめすかすとその裏で梱包の厳重さから密輸品である疑いがあるものの、解体し再梱包する時間が無い為にこの箱の中身について壊すことなく調べられないかと一行に小声で持ちかけて来た。テオドラのディテクト・マジックには変成術の反応があり、更にニャルのディテクト・ポイズンによりそれがウーズを不活性状態にする毒だと判別した。そしてレーナのサイコメトリーにより荷物の直前の所有者がゾン・クーソンの司祭であることが判明したことから危険物と見なされ箱を解体して中身を確認することになった。
 箱の中身は充填された緩衝材の藁にまみれた錬金術実験道具と大きな瓶に入ったハングリー・フレッシュで、箱の解体中にも活動状態となり飛び出してきた。錬金術処置によりミュータント化していたが飢餓状態で力を大きく欠いていたハングリー・フレッシュとの戦闘ではミェンウェンが早速新技の跳び蹴りを披露したものの強化された外皮に弾かれたり、ニャルが接触により腫瘍の寄生を受けたりしたもののテオドラのイアピアッシング・スクリームによって動きを止められ(基本的に幻惑状態は異常耐性持ちが極めて少ない)レーナの連撃とニャルのバーニング・ハンズで港の汚水の一部となり、危険物を持ち込もうとしたベックウッド・ルースは乗船を拒否された。
 そして翌朝、水平線から日が昇る頃には荷の積み込みが完了し、出航する為に舷梯を引き上げられようとしたところに慌てた様子の2人の女性が現れた。彼女達は先程上客を失った船長へと手際良く交渉を持ちかけると代わりの客として”ティアリーの気紛れ”号へと乗船してきた。シェリアックス仕立てのドレスと赤い漆塗りのラメラー・キュイラスを身に付けた長身のふくよかな目を惹く女性には一行も見覚えがあり、有名なオペラ歌手であるヴィラレーン・ヴァルヴィサイ(Viralane Barvisai)その人だと気が付いた。ヴィラレーンは数年前にエゴリアンでの公演時にシェリアックス貴族とのちょっとしたスキャンダルがあったらしく、その為かここ暫くはその素晴らしい歌声や演技を見ることがなかった。ヴィラレーンはその隣にいる眼帯を着けた地味なハーフリングの女性を自身の付き人コルラ(Corla)であると紹介し、礼儀正しく一行へと挨拶を済ませて楽しげに話しかけてきた。

 そのうちに日が水平線を離れ、快晴にして西への軟風が吹く中”ティアリーの気紛れ”号は錨を上げてロデリック・コーヴより出港した。


2.”ティアリーの気紛れ”号
 下甲板で群れる牛から漂う不快な匂いを除けば船旅は快適そのもので、初日の夜には船長の招待で乗客が一堂に会しての食事会が行われた。船のダイニングキャビンの長机には白いテーブルクロスが掛けられ、中央には”ティアリーの気紛れ”号の精巧な木製ミニチュアが生花で飾られていた。テーブルの先頭には船長が、その左にはオードラニが座り賓客の座である右側にはヴィラレーンが座り、コルラはその隣で控えめに立って彼女の指示を待っていた。以降の席には一行が座り、食事会が始まった。酢漬けのケッパーとオリーブを混ぜて焼いたパン、レモンで煮込んだ銀ムツとフライドポテトと続きデザートにはハーブ入りチーズのスライスとロデリック・コーヴで仕入れたブラックベリーワインが振る舞われた。食事の間にも食卓では盛んに会話が交わされ、自分自身の話を避け、しかし聖サズレルの話題を賞賛と羨望を以て話すオードラニ、隙無く周囲を観察するコルラ、自身の冒険譚を些か大げさに語るスルシャ船長はしかし話題が船の名前についてとなると沈黙し、代わりにオードラニがそれが失われた愛についての話題であること、そしてこの華やかな場には相応しくないことを告げ、一行には後で詳細を話すという目配せをした上で話題は時の人であるヴィラレーンへと移った。高名なオペラ歌手は機知に富みまた一行の見知らぬ世界である芸能界のゴシップを明るく様々な痛快な笑い話や噂話として披露してくれた。

 やがて酒精が程良く回り気分が高揚したのか、とうとう船長の熱烈な要求に折れたヴィラレーンはそれまで渋っていた歌唱を行うと言い、しかし折角なので狭い部屋ではなく広い甲板で披露したいと告げるとコルラにスカートの裾を持たせ部屋の外へと出て行った。ヴィラレーンが披露したのはタルドールの人気オペラである”オルロスの娘”(Daughter of Orlos)のクライマックス、悲劇のヒロインであるミリアムの最後のアリアだった。テオドラと鈴雨はこのシーンの最後にミリアムは高い塔の窓から飛び降り自殺することで締めくくられることを思い出し、ミェンウェンはヴィラレーンがまさしくそのつもりで船のマストを登っていることを看破した。一行の予想通り朗々とアリアを歌い上げながら檣頭まで登りつめた彼女は「はちきれんばかりの財布と空虚な心」の最後の小節を歌いながら甲板へと身を投げた。間一髪テオドラのフェザー・フォールが間に合い、赤い衣装をひらひらとはためかせながら甲板へと降り立ったヴィラレーンはその指に填められた魔法の指輪を見せ、「本当に死ぬ心算は勿論ありませんでしたわ」と断りを入れた上で礼儀正しく礼を述べ、周囲に船長を始めとした喝采の声が鳴り響くと満足そうな表情でこれに応えた。

 しかし一行にはまた別のものが見えていた。それはこの刺激的なショーの間じゅう姿を見せなかったコルラである。このハーフリングは主人が皆の注目を浴びている間に階段を降り、一行の部屋がある下甲板で何かを探っていたようだった。だが、一行が確認してもこれといった変化や欠品を見つけることは出来ず、船旅は暫く何事も無く続けられた。


3.ティアリーの気紛れ
 船旅を開始して4日目の午後、”ティアリーの気紛れ”号はかつて仮面の司祭によって管理された万神院があったというウィンドソング・アビー(Windsong Abbey)の近くを通りがかった。今では放棄され廃墟となった修道院の薔薇窓を飾るステンドグラスは日光を反射し輝き、崖沿いに吹く風は不気味で哀愁を帯びていた。一行と共に郷愁的な風景を眺めながらヴィラレーンはお気に入りのヴァリシア人の詩人エウラック・ケザーリ(Eulac Kezalli)による賞賛の詩を歌い上げながら過ぎて行く景色に没頭していた。

 その夜、夕食を終えて甲板で涼んでいた一行のところにスルシャ船長を伴ったオードラニがやってきた。オードラニはロデリック卿の魂を癒やした行いに感銘を受けたと一行を称えると、マグニマールを離れてからずっと瓦礫の底で苦しむイルシノールの悪夢を見続けていることを打ち明け、崩壊した像の下に埋もれる彼の魂を解放する為の儀式を手伝って欲しいと語った。船長は出発前のハングリー・フレッシュを片付けた手際の良さやヴィラレーンを助けたことを褒め、良い機会だからと昨日の夕食の時に避けた船の名前について語り始めた。ティアリーという名はかつて船長が知り合った海ドルイドのティアリー・スプリング(Tyalee Spring)に由来しており、ティアリーは両親を喪い失意の底に居た船長を慰め、やがてヴァリシア湾の天気のように気紛れで精力的に活動する彼女の姿に船長は虜となった。そして金になる仕事を断ってまでティアリーへと傾注するスルシャとエディ達船員は船の今後に於いて対立したが、最終的には唐突にティアリーが危険な島々のドルイド達の集団に加わる為に”枷の地”へと向かったことで終わりを迎えた。突然の愛の終わりに茫然自失した船長はロデリック・コーヴでオードラニと出会い、彼女に全てを打ち明けてカウンセリングを受けることでようやく立ち直りまた感銘を受けてアシャーヴァを信仰するようになった。その後自身の失恋への感傷と船長としての責務から船名を”ティアリーの気紛れ”と改め、現在に至っている。

 船長が自身の過去を語ったことについて一行が考えていると、やがて月が雲に隠れ、強い風が吹き始め空気は雨気を含んだものとなり、船長は水平線の先を睨み小声で呪いの言葉を呟いた。その日の深夜には嵐が船を呑み込み翻弄し、一行が目を覚ますと船長の号令一下船員達が慌ただしく動き回っていた。舵輪を握るサーシャ船長は一行にエディの指示に従うよう命令し、大きく揺れる甲板上での作業が開始された。因みに判定としてはタスク間の移動に〈軽業〉による技能判定が存在し、タスクの解決にも技能や能力判定を行う追跡と技能チャレンジの中間のような感じである。殆どの判定が〈職能:船乗り〉で代替可能だが流石に誰も持っていなかった。

 最初のタスクは船を安定させる為の錨を降ろす船員達の手伝いで、配置移動に成功したミェンがこれを成功させた。次に主帆を降ろす為に鈴雨とレーナが帆柱へと移動したが〈登攀〉により帆の結び目に辿り着けたのは鈴雨のみだった。しかし鈴雨は帆布をまとめる為の〈装置無力化〉と〈脱出術〉のいずれも持っておらず危うく船が風を受けて傾きかけたところにリヴィアがレーナをレヴィテートで持ち上げて帆布を畳むことに成功した。そして強い波が甲板を洗い、船員の一人が巻き込まれたところをミェンがその手を掴み危うく投げ出されそうになるのを防いだ。そして一行の素晴らしい活躍により船員は誰一人欠けることなく嵐を乗り切り、凪の夜明けを迎えた。
 日が昇ると早速船長の命令で船の被害状況を調べることになり、鮫が出ると有名な地域にも関わらず影の1つも見ないことを疑問に思っていたがすぐさまその理由を知ることになる。この海域は超大型の鎧魚ダンクレオステウスの縄張りであり、船底を動き回る新鮮な餌に齧り付こうと海の底からその姿を現した。しかし大した耐性どころか補助知覚も持たない古代魚をニャルがグリッターダストで目潰しして撃退した。この時、必要な道具を取り出そうとしたレーナは自分の指輪が盗まれていたことに気が付き探し回ると、申し訳なさそうにコルラを連れたヴィラレーンが声を掛けてきた。彼女曰くコルラはウェストクラウンの貴族に買われた奴隷であり、主人から盗みを働いたために通りへと捨てられていたところを自分が拾った為、未だその頃の癖が抜けていないと謝罪の言葉と共にその指輪を差し出され、望む罰をコルラに与えると言ったがレーナは罰を与えなかった。

 そうして応急修理は済ませたものの、船は舵に重大な損傷を受けておりそのままでの航行は困難だと判断され、最寄りの港であるサンドポイントへと立ち寄ることになった。


4.サンドポイントの夜
 そう、あのサンドポイントである。時系列的にはRise of the Runelordsは勿論終了しているが今回の卓ではJade Regentも終了済みであるという設定になっている。錆竜亭の看板娘アメイコは不在で内気なハーフリングの老婦人ベサナ(Bethana Corwin)が店を受け継ぎ切り盛りしている。そのため往年の繁盛ぶりは身を潜め、町の一番人気は他の店のものとなってしまっていた。

 日が暮れる前に何とかサンドポイントの造船所ドックへと入港を済ませた”ティアリーの気紛れ”号だったが、口汚いケレッシュ人の新人港湾長ジャレヴィア・ステンシン(Jhalevia Stensin)との議論の結果、金を積んで夜通し修理させてもほぼ半日掛かるということで船長は乗船している全員に一晩の休暇を許可し、一行もそれに倣って船を下りることとなった。
 ヴィラレーンの誘いで今やサンドポイントで最も繁盛する宿である彼女の行きつけの”欠歯亭(Cracktooth's Tavern)”で夕食を共にすることになった。大きなステージを備えた宿の主人”欠歯”ジェス・ベリーニ(Jess“ Cracktooth” Berinni)は久しぶりとなる歌姫の訪問に喜びステージを今にも開けようとしたが、ヴィラレーンは夜が未だ早く喉の調子も良くないことを理由にこれを断り、”名誉ある護衛”と紹介した一行と共に食事の席に着いた。

 様々な芸人や歌手がステージに立っては嘲笑や罵声を受ける中、鈴雨がとっておきの演奏を披露して喝采を浴びると常連客達もヴィラレーンに声を掛けステージへと立つよう促したが、彼女はそのどれもやんわりと断り続けていた。しかし宿の主人であるジェスがステージへと立ち、数年前に起こったマグニマール大津波災害の話を始め、その復興を行うヘルドマーチ基金への募金を集める為にヴィラレーンに彼のお気に入りの一曲”A Lucky Spar in Magnimar(マグニマールでの幸運なる模擬戦、か?)”をリクエストした。

客達も彼女へと歓声を投げかけてはステージへと急き立て、程良く酔っていたヴィラレーンは更に手の内の一杯を品良く煽ると晴れやかな表情で立ち上がりステージへと向かおうとした。しかし店に入ってからずっと隣で直立不動だったコルラが彼女の耳元で何事かを囁いて制止しようとしたが脇に押しのけられ遂にヴィラレーンはジェスの手を取りステージへと上がった。ざわめく客達を静かにさせる為にヴィラレーンが両手を掲げ、やがて静寂に包まれたステージの上で手を組み深呼吸をした彼女は美しく澄んだアルトの歌声で最初の小節を歌い上げる…しかしすぐさま歌は調子を外れ始め酔った聴衆達からの品の無い嘲笑で歌は中断された。

 恥辱に顔を染めたヴィラレーンは彼らに口汚い罵声を浴びせると常連達に制裁を呼びかけた。だが静まりかえった客席からは誰も動くことなく、怒りに顔を歪ませた彼女は店から飛び出しコルラがその後に続いた。興醒めした客達をなだめる為に急遽鈴雨が後を継いでステージへと上げられ、他の者達が彼女を追って暗い路地裏へと向かうとそこには化粧を崩し泣き崩れるヴィラレーンの姿があった。彼女はそれを自分にかけられた呪いだと一行に打ち明け、やがて何とか取り繕った笑顔を浮かべると船へと戻ると告げてその場を立ち去った。


5.ヴィラレーン・ヴァルヴィサイの改心
 翌朝の夜明け、修理を終えた”ティアリーの気紛れ”号はサンドポイントから出航した。朝食の席にヴィラレーンの姿は無く、船長はそのことを気にも留めず一行に翌日の夜明け迄にはマグニマールへと到着する必要があると告げた。

 だが、その日の午後遅く2つの島の間にある海峡を通り抜けているとコルラが現れてヴィラレーンが個人的な話があるから来てくれと船長に伝え、それに同意した船長は彼女達の船室へと向かった。船長は甲板へと戻ると深刻そうな表情でエディに船の水樽を全て空にするように命じ、近くの小島へと進路を変更した。一行が尋ねると船長は水樽が汚染されており、島に立ち寄って代わりの水を補給しなければならないと返答した。ミェンウェンは船長が心術による精神操作を受けてその話を信じ込んでいることに気が付いた為に様々な代案が出されたが船長を説得するには至らなかった。
 困惑した船員達がそれでも船長に従い島へと船を着けて一行が水を汲みに降りる直前、レーナはヴィラレーンに呼び出され彼女の部屋へと向かった。のんびりした様子でお茶を勧めてきたヴィラレーンは昨日の出来事の原因である呪いとその発端について語り始めた。ホイッスルダウンの貧しい石畳職人の娘として育った彼女は、父親の搾取から逃れ自身の才能を信じて旅芸人へと身を投じた。やがてコルヴォーサのケンダール・アンフィシアター(Kendall Amphitheater)での上演中にシェリアックス貴族の目に留まった彼女は「エゴリアン、アブサロム、オパラのより目の肥えた観客の為に」劇団を辞退し、その言葉は事実となった。名声の高まりは自尊心を生み、ヴィラレーンは他者への軽蔑と際限ない傲慢を体現しながらあらゆる欲望と気紛れを発揮しながら後に彼女の崇拝者という数多くの犠牲者を残していった。コルラはそんな信者達から捧げられた供物の奴隷であったが、気紛れから奴隷を解放し自身の友人であり護衛であり召使いであるとしたことからコルラもヴィラレーンの最も熱烈な信奉者となった。しかし、エゴリアンでの公演中に全てが転じた。女王陛下が愛するメロドラマ「地獄の門を叩くルクルア(Luculla Storms the Gates of Hell)」の公演中に女王のいとこレゲムス・スルーン(Regemus Thrune)という男に見初められ、2人は激しく愛し合った。ある夜、ベッドで情事の真っ最中に寝室へと踏み込んできたレゲムスの妻チャラ(Chara)は夫の心臓にレイピアを突き立てその命でヴィラレーンに呪いをかけた。呪いは彼女の立つ舞台は必ず失敗するというもので、ヴィラレーンの呪いを解こうとする必死の努力にも関わらず積み上げられた富は砂のように指の間から零れ落ち、やがて彼女は安酒場や街角で日銭を稼ぐ自身の姿に気が付いた。そうした生活が1年程続き、遂に彼女は次なるパトロンに見出され新しい生活を手に入れた。それは”孔雀の精霊”の信者となることである…しかし生け贄補正があるとはいえ舞台上での演技に必ず魅力ベース技能に-15のペナルティが入るDC 25の呪いとは恨み骨髄に徹したもので。

 そうして自身の恥ずべき過去と行いを披露したヴィラレーンは、レーナに所持している特別な剣を渡すようにチャーム・パースンで「お願い」した。しかし誤算だったのはロデリック・コーヴで入手した情報によりヴィラレーンはバラケットの所持者がレーナであると勘違いし思い込んでいたことである。よく分からないままワキザシを差し出したレーナに激怒したヴィラレーンがホールド・パースンによってレーナを麻痺状態にすると横に立っていたコルラが素早く止めを刺そうとたっぷりと毒を塗ったククリに手を掛けた。

 しかし、レーナが来ていないことに気が付いた一行がすぐさま甲板へと取って返しヴィラレーンの船室へと踏み込むとテオドラのオーナイリク・ホラーにチャラの幻影を見たヴィラレーンは半狂乱でそれに襲いかかり、その間にもニャルのフロスト・フォールでコルラもろともよろめき状態となり、両手でカタナを握ったレーナによって気絶させられた。残ったコルラもテオドラによって悪夢を見せられた後でカラー・スプレーで気絶させられ戦闘は終了した…GMとしてはどちらか片方は死亡するもんだと思っていたが。

 捕縛されたヴィラレーンは目を覚ますと自身が死んでいないことを意外に思いつつもこの場から何とか逃げ出そうと思案していた。しかしバラケットを不用意に持つと剣により支配され、また万が一にも剣の能力が解放されたならば所持者以外に死の幻影をもたらすという鈴雨達の説得によって自身が捨て駒として利用されていたことに気が付き、ヴィラレーンはマグニマールに着く迄の間一行に従うことに同意し、自身の呪いを解く為に”孔雀の精霊の徒”を名乗るヒラ・ドスという女性と取り引きを行い、”傲慢の魔剣”を強奪する目的で一行と接触したこと、彼女とはホロウ・マウンテンで合流する手筈だったと打ち明けた。因みにもしもこの戦闘でコルラがバラケットを手にした場合、力を蓄えていたバラケットは1ラウンドの間だけ全ての能力を発揮すると書いてあった(勿論、クリティカルによるウィアード呪文も)。

 翌朝、ヴィラレーンはマグニマールの衛兵へと引き渡されたが、傲慢そのものであった自身を省みる機会を得た為かその顔は随分と晴れやかだった。彼女に心酔しその凶行に手を貸しながらも改心を願っていたコルラは一行に深く感謝し礼を述べ彼女について行った。

 実はヴィラレーンの呪いを解くにはリムーヴ・カースのみでは不十分で、アトーメントつまり彼女が心より過去の行いを悔い改めて贖罪を願い、罪を償うことを望まなければならない。しかし或いは現在の彼女であればそれも可能かも知れない。


6.オードラニの回心
 沖に不気味な島、かつてのサーシロン皇帝の墓所があったシン島が浮かび、未だ地震と津波の疵痕が残るマグニマールへと到着した一行は早速アラバスター区画のヘルドマーチ邸へと向かったが、生憎彼女は不在でくたびれた容姿の受付員ウェルベン・オーリーから後日連絡を入れるから”グリフィン亭(Gryphine)”で待っていてくれと告げられた。

 グリフィン亭の部屋にはマホガニーの葉巻箱とキャンディの贈り物が届けられており、新たなるヴァリシアの英雄達の旅の成功を祈る言葉とささやかな贈り物としてこれらの品を楽しんで欲しいという旨のヴィラレーンからの手紙が添えられていた。高レベルメスメリストである彼女にとって衛兵をどうにかするというのは極めて簡単な問題だったということである…因みにヴィラレーンが改心しない場合、この葉巻箱には”狂気の霧”が詰められており、当然彼女もバラケット奪還やPC達の暗殺を諦めていない。
 評議会の返答を待つ間に自身の問題を片付けたいとオードラニが願い出た為、一行もそれに付いて行くことになった。かつてオードラニが聖サズレルの像を建てようとした場所は現在を以て低い瓦礫の山が残る空白地となっており、周囲には幽霊が出るという噂もあった。現場に近付くにつれて苛立ちを顕わにし怯えを口にするオードラニだったが、瓦礫の前に立つと深呼吸をしてから跪き儀式を開始した。しかしそれを待ち構えていたかのように瓦礫の隙間から塵が湧き上がり、オードラニの名を呪わしい何かのように唸るアンデッド、クラッシュド・チョーキングシェードと化したイルシノールが顕現し襲いかかってきた。テオドラが素早く心的増幅したコマンド呪文によりイルシノールの動きを封じた上で駄目押しのオーナイリク・ホラーで無力化し、その間にレーナが刀の塵にした。そして再び再開した儀式をオードラニが無事に終了させると、光輝く祝福という形でアシャーヴァは許しと感謝をその場にもたらした。少しだけでも自身の罪が解消されたことでオードラニはようやく自分の信仰を取り戻す手立てを手に入れることが出来た。


7.シェードロン評議会
 翌日、一行がグリフィン亭で朝食を楽しんでいると、宿の正面に豪奢で頑丈な馬車が迎えとして乗り付けられた。再びヘルドマーチ邸へ向かうと、今度は昨日のような受け付けでの立ち話ではなく、髭を剃り髪を整え折り目正しい礼装を着た家令のウェルベンに出迎えられて邸宅の応接室へと案内された。
中ではドレスを着飾った女性、シェードロン評議会の代表にしてパスファインダー協会マグニマール支部のヴェンチャー・キャプテンでもあるシェイラ・ヘルドマーチ(Sheila Heidmarch)、マグニマールの統治者としての装飾を身に纏ったハルドメア・グロバラス市長(Lord Mayor Haldmeer Grobaras)、前市長にしてマグニマールの市場を取り仕切る”市場の王女”サブリーヤ・カルメラルム("Princess of the Markets" Lord-Mayor Sabriyya Kalmeralm)、そして有名な冒険家にしてパスファインダー協会員のコリア・アズメレン(Koriah Azmeren)といった錚々たる面々が一行を出迎えた。

 しかし皆の表情は一様に厳しく、それはシェイラが語る事実を聞けば当然のことであった。英雄達の活躍により再構築されたシン帝国の至宝シェードロン(7つのアーティファクトの集合体)に奇妙な反応があり、これをルーンロードの復活の兆候と読んだ評議会は以前の英雄達、即ち”シェードロンの英雄達”に再びシェードロンを貸し与え調査するよう依頼した。しかし英雄達との連絡が途絶え彼らは行方不明となった。その後の調査でホロウ・マウンテンにて憤怒のルーンロードであるアラズニストが復活した可能性が最も高いと判断されたが未だ誰もホロウ・マウンテン内部を調査しておらず、一行にシェードロン評議会の代理人としてこれを調査して欲しい、もしも従えないのであればこの場を去り安全な場所で我々の成功を願っていて欲しいと(半ば強引に)依頼してきた。

 サブリーヤによれば以前に別のパスファインダー達による調査でホロウ・マウンテンそのものが巨大な複合地下迷宮であることが判明しており、またコリアは現地近くにはケルフッドという名のレンジャーが留まっており、彼の協力を仰ぐようにと言い渡された。

 そして、この時より一行、特にテオドラは時折何かに見られているという感覚を抱くようになった。


8.ソーシェンの夢
 その日の夜、一行は揃って同じ夢を見た。夢の中で一行は山道を歩いておりやがて開けた広場へと出た。そこにはフードを目深に被った女性が火の番をしており、顔を上げるとそれは見慣れたテオドラの顔だった。しかし彼女の立ち振る舞いや仕草、口調に違和感を抱いて改めて仲間を見ると、そこには見知らぬ顔の男性がテオドラの代わりに立っていた。

 困惑する一行を他所に悪戯じみた笑顔を浮かべた女性は「迂闊にルーンロードの持ち物に手を出すとこういうことになる」と冗談めかした警告を言った後、自身は情欲のルーンロードであるソーシェンだと名乗り、一行とは敵対する気が無く逆に復活したアラズニストと敵対することには互いにとって共有出来る利益が存在すること、ホロウ・マウンテンの底でアラズニストの前任者であるサイビドスを探し、アビサル・ルーンストーンで彼の怒りを鎮める必要があること。そしてそれが終わったならば自分はコルヴォーサで一行を待っているとを告げた。テオドラやニャルはこれがソーシェンの手により強化されたドリーム・カウンシルの呪文であることを感じ取り、復活したルーンロードの力の一端を見せつけられたことに気が付いた。

 そして夢は終わり、一行が目を覚ましたところで時間となり今回は終了。サンドポイント、シン島と復興中のマグニマール、シェードロン評議会や敗北したシェードロンの英雄達に復活した憤怒のルーンロード、アラズニストと敵対する意志がないと告げる情欲のルーンロード、ソーシェンと懐かしむ暇も無く畳み掛けるような怒濤の情報量と展開だった。

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